経営事項審査(経審)は、なんのために受けるかというと、「経審を受けるのは入札に参加するため」です。それ以外の目的や役割がないわけではありませんが、やはり経審の最大の目的は入札への参加です。
それでは入札に参加するためにはどうすればよいのかについて解説していきます。
入札といえば公共工事のこと
一般的に建設業界で「入札」といえば、都道府県や市区町村、各種官公庁が発注する公共工事のことを指すと思って差支えないでしょう。もちろん、民間=民間の入札もあるのですが、民間同士の受発注だと自社にとってやりやすい業者に発注すればよく、わざわざ入札で決めるまでもないことが殆どです。今後は注釈が無い限り「入札」といった場合は都道府県や市区町村、各種官公庁が発注する公共工事についての入札を前提として解説していきます。
入札に建設業許可は必須か?
入札にはたいてい「建設工事」と「物品役務(委託)」のような感じで2パターンの分類が用意されています。名称は発注者によって微妙に差異がありますが、内容は【「建設工事」=建設業許可が必須】、【物品役務=建設業許可はほぼ要らない】、となります。建設業許可が入札参加に必要なのであれば建設工事の分類で公募するよ、という感じです。
建設業者でも物品役務分野の入札参加資格を申請してOK
「うちは建設業者だから物品役務の分類は関係ないのでは」とお感じになられたかもしれません。建設業者が建設工事分類の入札にしか参加してはいけない、というルールはないのできちんと請け負った業務を完遂できるのであれば物品役務分類の入札に参加することはまったく問題ありません。
物品役務でも建設業許可が必要なケースがある!?
中には物品役務分類で発注されているが、実態を見ると建設業許可が必要になる、ということはありえます。その逆で、建設工事分類で発注されているが、建設工事ではなく建設業許可はいらないケースもあります。特に造園関係、通信機器や電気を使用する製品関係、消防関係は実態を見ると建設工事に該当し建設業許可が必要だった、と判断できるケースが(他の専門業種に比べると)多いかもしれません。
除草・草刈・剪定は役務、植栽は工事
たとえば造園関係だと、除草や草刈、樹木の剪定などは建設業許可は不要とされています。一方、植栽(樹木や草花を植えること)は建設工事とされていて、建設業許可が必要とされています。
入札には許可&経審が必要、施工には許可が要らない場合があります
公園を美化する目的で、ある市が「A公園工事」という名目で建設工事の分類で入札にかけたとします。落札した業者が実際に施工してみると、樹木の剪定や除草・草刈りしかなかった場合、この市との請負契約を遂行するためには建設業許可は不要だった、ということになります。ところが、この請負契約を結ぶためには建設工事分類で入札参加資格を取得している必要があり、その入札参加資格を取得するためには建設業許可と経営事項審査を受けている必要があります。
入札には許可&経審が不要、施工には許可&経審が必要な場合もあります
逆のパターンもあります。ある自治体が「B公園美化作業」という名目で物品委託(役務)の分類で入札にかけたが、実際にはその内容は樹木や草花を植える作業が含まれているようなケースです。このケースでは、自治体との請負契約を遂行するためには建設業許可が必要だったが、この請負契約を結ぶためには物品委託(役務)分類で入札参加資格を取得している必要があり、その入札参加資格を取得するためには建設業許可と経営事項審査のいずれも不要だった、ということになります。
業種の考え方、でも違う切り口で解説していますが、このように自治体や官公庁が発注しているカテゴリや分類の判断は100%正しいわけではありません。あくまでも建設業法にのっとって判断されることになります。
入札案件を請け負うには4段階の手続きが必要(建設工事の場合)
入札を落札し、実際に都道府県や市区町村などと契約するまでには4段階の手続きをクリアしていくことになります。まずはじめは建設業許可取得、その次に経営事項審査、その次が入札参加資格審査申請、ようやく最後に入札参加です。
まずは建設業許可の取得から
建設業許可を取得するために必要な手続きについては建設業許可徹底解説という記事がありますのでそちらを見てみてください。許可を取得するために必要なことは、
- 建設業の経営に携わったことがある人がいるか(人的要件)
- 建設工事を請け負うことのできる技術をもった人がいるか(人的要件)
- 事務所があるか(営業所要件)
- 建設工事を請け負うことのできるお金を用意できるか(資産要件)
- 反社会的勢力など、NG項目に引っかかってしまう人がいないか(誠実性要件)
つぎに経営事項審査申請
つぎに、経営事項審査です。こちらの手続きは経営事項審査徹底解説という記事が参考になるかと思います。経営事項審査とは、建設業者の通知表のようなもので、会社の経営状況を多角的な観点から評価を受けるもので、入札に参加する上で欠かせないものです。
入札に参加するためには入札参加資格審査を申請する
入札に参加するにあたって、「入札参加資格」というものに申請することになり、「入札参加資格審査申請」と呼ばれています。これは、入札に参加するために入札に参加する意思表明をし、参加者名簿に掲載することを都道府県や市区町村などの自治体に申請するものです。これを済ませただけでは入札に参加する名簿へ掲載することを申請しただけで、実際に札を入れるのはさらにこの後になります。この「入札参加資格審査申請」の時点で有効な経営事項審査の結果通知が必要です。加えて、一定以上の有効期限が残っていることが指定されていることがほとんどです。これには、来週に有効期限が切れる経営事項審査の結果通知を添付しても意味が無いのではとイメージすればわかりやすいかと思います。
経審は入札参加資格審査申請時から入札参加資格を喪失するまで切らさない
「入札参加資格審査申請」の時点で有効な経営事項審査の結果通知が必要ですが、入札参加資格の期間内は経営事項審査の有効期限を切らさないようにしておくことが求められます。入札参加資格の期間内でも経営事項審査の有効期限が切れていると入札には参加できません。もし、入札行為が出来てしまって落札できてしまったとしても(経審の有効期限が切れていないかを自治体側が逐一チェックしていないことがある)、後々指名停止処分などの処分をされてしまい、取り返しのつかないことになります。
どの自治体等の入札に参加すればよいかは別の記事で詳しく解説します。
経営事項審査の次に入札参加資格審査申請
経営事項審査の結果通知や他の必要書類を添付して、入札参加資格審査申請を行えば、書類を提出した先の入札に参加することができるようになります。自治体だけでなく、外郭団体などもありますので、自社がどこの入札参加資格を申請するとよいかを検討し、参加資格を申請します。
県と市、市と市など複数の自治体に参加
複数の自治体に参加することも珍しくなく、本社のある都道府県下全市町村に入札参加資格を申請するようなケースもよく見られます。民間発注の工事に置き換えてみると、本社のある市だけでしか工事をしないことはないでしょうし、きちんと施工することができる地域であれば受注するのではないでしょうか。公共工事の場合は、予めその自治体の入札参加資格に申請を済ませておかなければ発注はされない、というイメージです。随意契約や入札に馴染まない案件などの一部例外はもちろんあります。
行政書士を活用するのがおすすめです
私たち行政書士に入札参加資格審査申請をご依頼いただくと、もちろん費用は発生してしまいますが、どの自治体の何年度のどのカテゴリの参加資格にどういう申請をしたかを把握できますので、自社で管理するコストを大幅にカットすることができます。
入札参加資格の内容は自治体によってかなり違う
入札参加資格は主体となる自治体が詳細を決められるので、何年度から何年間有効か、その期間内からの途中参加を認めるか、カテゴリをどう分けるか、個別の案件をどちらのカテゴリで入札にかけるか、地元業者を優遇するか、経審の点数でランク分けをするか、など例をあげきれないほど裁量の範囲が非常に広くなります。これらの多くの点について、参加したい自治体の数だけ検討する必要が出てきますので、すべてを自社で対応するのはなかなか大変です。建設業者さま同士の横のつながりを活用して情報共有をしている方も多いと聞きます。
いよいよ入札に参加
最後にようやく入札参加です。個別具体的な案件に参加できるようになって初めて札を入れられるようになります。ただし、入札にも種類があります。よく知られているのは「一般競争入札」と「指名競争入札」の2つです。
誰でも参加できる一般競争入札、指名されると参加できる指名競争入札
「一般競争入札」は不特定多数の入札業者が自由に落札希望価格を入札し、落札業者を決定する方式です。「指名競争入札」は、入札業者を発注自治体が「指名」し、その指名された業者の中から落札業者を決定する方式です。入札参加資格を得ていても指名されなければ「指名競争入札」には参加することができません。入札参加資格の1つの目標として、この「指名競争入札」に呼ばれるようになることを掲げる建設業者さまは少なくありません。それだけ自治体からの信頼が厚い・事業者として評価が高いことの証ともいえるからでしょう。
入札価格だけで落札業者は決まらない
どちらの方式の入札も単純な価格だけで落札業者を決定することはあまりなく、総合的に評価され決定されると考えていただいてよいかと思われます。もちろん、価格も重要な要素の1つであることは間違いありませんが、それだけでは決まらない、といえます。
落札希望価格の安さだけで決めてしまうと、例えば発注したものの到底利益が出せないような価格だったため工期途中で会社が倒産し施工が完了させられなくなった、となりかねません。市民の税金を原資に、限りある予算の中で必要な工事を発注しているので、なによりも「きちんと完成させること」を強く意識します。そのうえで無駄遣いをしないことも期待されますから、「同水準の施工ができそうならより安い価格を提示」した業者に決定することになります。
また別の視点で見てみると、税金を特定の1事業者にだけ大量に流入させてよいのかという公平性の視点も重要になります。この視点から、1事業者年間いくつまでしか落札できない、という制約がついていることがあります。利幅の大きくない案件でこの「いくつまで」の1枠分を消費してしまうと、より利幅の大きい案件を落札できずに機会損失をしてしまうかもしれません。
何年も自治体の入札に参加していて、落札した案件を継続的・安定的にきちんと施工していると、発注者側自治体の信頼が高まります。そうなると指名競争入札にも呼ばれるようになります(信頼度だけで決めるわけではないので早期に呼ばれることもあります)。
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