経営事項審査の点数(P点)の改善は全ての経審業者さまの関心事ではないでしょうか。
経審を受けるのは入札に参加するためで、その入札には経審の点数が最も重要な指標になるからです。
ところが、その点数を改善するためには、となるとなかなか簡単に取り組める内容でないことが分かります。そこで、経営事項審査の点数改善について徹底解説します。
経営事項審査の点数配分表
総合評定値(P)=(X1)×0.25+(X2)×0.15+(Y)×0.20+(Z)×0.25+(W)×0.15
完成工事高 | X1 |
---|---|
経営規模 | X2 |
技術力 | Z |
その他の審査項目(社会性) | W |
経営状況 | Y |
総合評定値(P点)は、上記の計算式で算出されます。会社の総合的な評点を算出するためのものであり、様々な角度からの指標で評価を受けることになります。
そのため、一朝一夕で加点を狙えるようなものはなく、地道な努力の積み重ねが効果を発揮します。
とはいえ、経審制度のスケジュール感や現場との兼ね合いを考慮すると経審の点数改善がいかに簡単な事ではないかが見えてきます。
経審の点数改善はなぜ難しいのか?
建設業に限らず、どの会社にも年間のスケジュールがあります。それぞれの決算期があり、繁忙期や閑散期がある場合もあるでしょう。
建設業者の場合、決算終了後4ヶ月以内に決算変更届、5年に1度の更新ということになります。
経審は決算日を審査基準日と設定し毎年客観的な評価を受けるものと見ることができます。
経審の有効期限は決算日から1年7ヶ月ですから、決算変更届と同じタイミングで取り掛かることになるケースが多いです。
毎年の「○○の時期が来た」というイメージで肌に染みついているのではないでしょうか。
ところが、経審の点数を改善するためには、決算確定前にしかできない内容のものばかりです。
つまり、毎年の「経審の時期」になってから点数改善に取組んでもほとんど何もできないことになってしまうのです。
売上を上げる、財務状況を改善する、技術者を増やす、環境を整備する、と簡単に言うとこの方法に集約されていくのですが、売上や財務状況などは計算式がなかなか複雑で、売上が上がっても評価が下がる、とうパターンはあり得ます。
経審の点数改善のためには進行中の期中から取組みをしておくことが望ましいのですが、これらの取組みは、あまり現場の作業と関連性がないものがほとんどです。
どちらかというと、事務よりの傾向のものが多いと言えます。
これも、バックオフィス機能(事務方や総務部のはたらき)が相当整備されていなければそう簡単なことではありません。
行政書士をうまく活用しよう
工事を施工する、契約を獲得する、とのどれとも違う能力が要求されます。
経審の点数改善への取組は中長期的な取組となるのは避けられません。点数が改善したとしても必ず公共工事を落札できるか、というとそれも競争相手があることですから確実とまでは言えません。
そんな時に納期が厳しい工事があったり、取れそうな契約があったりすれば、そちらを優先するのは当然ともいえます。
そこでおすすめするのが経審(や許可)のことは私たちのような外部の専門家を有効に使ってみませんか?というご提案です。
経営者の皆さまには現場に近いところで力を発揮していただく。私たちは皆さまの目標を「経審」や「許認可」というアプローチで実現に近づけるために力を使う、というイメージです。
頑張れば自社でもできる。そうすれば行政書士に払うコストも削減できる。
たしかにそうです。一方で、有効期限を気にしながら現場も遅らせずに回しつつ、点数アップのことまで考えるというのは相当にハードなことです。
会社の成長力の源でもある社長の時間と体力を削っていきます。
例えば、私たち行政書士が選択肢を示し、社長はその採否だけをご判断いただくなどして負担を軽減することも考えられます。
経審の点数改善には、「売上を上げましょう」であったり「(1級)技術者を増やしましょう」というような王道の点数アップの方法以外にも、「〇〇を導入しましょう」や「△△に加入しましょう」というような即効性のあるものもいくつかあります。
それぞれにコストが発生しますが、それでどれくらいの効果があるのか、結局P点が何点上がるのか、という点まで自社で判断するのはかなり難しいのではないでしょうか?
点数は高ければ高いほど良いか?
当事務所では、経審のご依頼をいただいた際には、事前にいただいた情報をもとにシミュレーションを行い、予測P点をお知らせしております。
P点の予測値が分かれば、様々な対策を考えることができます。
次年度は「もっと上げたい」のか「現状維持」でいいのか、あるいは「上がりすぎたので少し下げたい」こともあるかもしれません。
過去に取り扱った事例では、たいてい「もっと上げたい」となるのですが、「上がりすぎたので現状維持か少し下げたい」というご要望をいただいたことがあります。
点数を「下げたい・抑えたい」というご要望
ところで、経審のP点を「下げたい」という要望はなぜあるのでしょうか?それには経営事項審査(経審、ケイシン)が何のためにあるのか、を知っておく必要があります。経審はもちろん入札に参加するためというのが最大の理由です。
入札(公共の入札に参加するための申請は入札参加資格審査申請といいますが、今後「入札参加」といいます)は、都道県や市町村、独立行政法人など発注者は様々ですが、発注する工事に参加してくれる事業者を広く一般に公募する仕組みです。
大小さまざまな事業者が参加を希望することになりますが、発注者の側で一社一社細かに事業者を分析して受注業者を選定することができません。
保有資産、資金力、財務状況、技術者数、施工能力などは一般的に公開されるような情報ではないからです。
財務状況などは決算公告で見られなくはないこともありますが、それもすべての事業者に当てはまるものではありません。そこで、それらの状況も含め、事業者の経営状況を多角的に、客観的に評価する指標として経審が用いられます。
入札の仕組みと建設産業の構造
入札に参加した事業者の中から受注業者を決定する際に、ただ単純にP点の高い順にしてしまうと、大企業や大手ゼネコンがすべて落札してしまうことになります。
これだと中小企業や零細企業、個人事業の事業者は生き残れなくなります。中小未満の事業者が全て淘汰されてしまうと、大企業や大手ゼネコンが下請けに出していた事業者もまたその「淘汰されてしまう中小未満の事業者」であることが多く、建設業界は成り立たなくなって産業が死んでしまいます。
そこで、入札には格付け(ランク)が設定されているケースが珍しくありません。
例えば、建築一式工事業でP点1,100点以上はAランク、1,099点~900点はBランク、899点~650点はCランク、Aランクは発注金額2億円以上、Bランクは発注金額2億円未満~5,000万円、というようなイメージです。発注者が自治体の場合には、地元産業の育成という視点が欠かせません。
そこで、たいていの自治体の入札には、「市内(地元)業者」「準市内業者」のようなカテゴリ分けが設定されています。
「市内(地元)業者」には、経審のP点に加え、地元点+100点のような仕組みが設定されていることがあります。
この、ランクと発注金額との兼ね合いで、自社にとって一番良いゾーンはどこか?という見方をすることが重要です。
P点をどこまでも上げ続けようとするとどうなる?
計画性を持たずにどんどんP点を上げていったところ、ギリギリAランクに格付けされることになった場合を考えてみましょう。
Bランクまでなら競争相手は自社と同規模あたりの事業者が多いと予想されます。ところが、Aランクになると、上は天井知らずですから、大企業や大手ゼネコンと同じ土俵で戦わなくてはなりません。
それだけではありません。こつこつと事業拡大し、ステップアップしていった事業者であればあるほど、突然大きな工事を落札できたとしても果たしてそれを施工できるでしょうか?
急に技術者を増やそうにもそんな体制は社内にまだ整備されていないし、大きな工事には当然大きな材料費がつきものですが、それを支払ってキャッシュフローは大丈夫でしょうか?
建設業に限ったことではありませんが、どのくらいの規模の仕事を何人でやるのが最適か、というのはそれぞれの事業者によって違います。
その事業者がどこを目標としているのかによっても違います。事業拡大を第一に考えている会社と利益率を重視している会社ではそれぞれの会社にとって最も好ましい案件というのは同じにならない可能性が高いでしょう。さ
きほどの例でいえば、自社にとって2億円~5,000万円の規模の工事が最も好ましい案件であった場合には、その会社にとっては「Aランクに格付けされたくない」という事態が起こります。これがP点を「下げたい(あげたくない)」という一例です。
まずは社会性(W点)から取り組むのが効率的
経審の総合評定値(P点)は、その名の通り事業者の「総合的な評定」によって算出されます。
自己資本の大小や財務状況、会社の規模からみて売上の上がり方がどうか、経審を受審する業種の実績はどうか、技術者はどうか、など多岐にわたります。
点数は上げたいけど何から取り組めばいいのか分からない、というお悩みはよく耳にします。そこでおすすめするのが、社会性(W点)の項目から着手していく、というアプローチです。
社会性の中身を見ていくと、社会保険の加入、退職金制度や上乗せ労災のような「労働福祉の状況」と呼ばれる項目、その他営業年数や防災活動への貢献、若年技術者の育成・確保などといった項目が並びます。
社会保険は必須
その中でも最も重視するべきなのは、雇用保険・健康保険・厚生年金保険の社会保険への加入です。
2020年の改正によって、建設業許可の取得にこれらの社会保険の加入が義務付けられましたが、それ以前は許可要件とまではなっていませんでした。
そのため、経審の評価においても減点はされるものの、下限は0点とされていました。
ところがこの部分が改正によって0点の下限が撤廃され、マイナスの点数がつけられるようになりました。
これではいくら売上を上げ、一級技術者を確保しても点数は上がりません。各自治体の入札で「社会保険加入」を条件に付けている所も多いのでやはり社会保険加入は必須だといえます(適用除外事業者は除きます)。
建設業界ならではの退職金制度、建設業退職金共済制度
建設業退職金共済制度(建退共)制度の加入も重要です。
自社所属の技術者や職人が現場に出るごとに1日あたり数百円分の退職金を積み立てていくようなイメ―ジです。会社は綴られた証紙を購入し、現場に出た人に証紙を交付していきます。
技術者や職人の方が退職される際に在職中に受け取った証紙の額に応じて退職金を受け取れる制度です。
元請下請の関係性や、協力業者への出向など、自社の枠内を飛び出して働くことも珍しくない建設業界ならではの制度といえるかもしれません。
現場に出た人に証紙を交付していきますので、たとえそれが自社の人間ではない人であっても証紙を交付することになります。
また、退職一時金制度若しくは企業年金制度を導入しているか否かも加点要素となります。
建退共も退職に関連する制度ですが、退職一時金制度とは別項目の扱いとなっています。建退共は建設業界全体の制度、退職一時金制度等は自社独自の制度、と整理するとわかりやすいかもしれません。
どちらも事業主として、従業員の労働環境や福利厚生にきちんと費用をかけて取り組んでいるかという視点です。
さらに、法定外労災加入の有無もこれらの「労働福祉の状況」の中に含まれてきます。「法定外」なので法定されている労災補償制度からさらに拡充した保険に加入しているかどうかという点です。
さらに拡充した保険という意味で上乗せ労災とよばれることもあります。上乗せであればなんでもよいわけではなく、経審で加点を得るための上乗せ条件が決められています。
加入する際は保険会社に「経審用の保険」といえば通じることが多いかと思います。
建設業界は慢性的な高齢化と若年労働者不足、後継者不足が叫ばれており、その原因といわれているのがいわゆる3Kと呼ばれる労働環境にあるのではないかと言われてきました。
経審のような事業者を評価する仕組みとして、3Kのような労働環境の改善に取り組む事業者は評価していきますよというメッセージを感じ取ることができます。
防災協定や建設機械の保有でも加点
次に、取り組みやすく加点を取りやすい項目は「防災協定」です。
その名のとおり、災害発生時や防災のために協力する事業者に対する加点です。一社単独で自治体と防災協定を結んでいるケースもありますが、ほとんどが所属している団体と自治体が協定を交わしているケースです。
自社の加入できる団体で自治体と防災協定を交わしているところがないかを探してみてください。もちろん、災害が発生した時には協力することになりますので、その点は理解しておく必要があります。
建設機械の導入(購入もしくはリース)をすることで加点を取ることもできます。
加点対象となっている建設機械を導入すれば、台数に応じて加点されていきます。ここでいう「建設機械」とは、機械工具のようなものではなく、ダンプやショベル、バックホウなどの重機だとイメージしてください。
この建設機械導入についての配点テーブルが少し前に改定され、少数台を導入した場合に加点される幅が大きくなりました。建設機械の項目で取れる加点上限は変わっていませんので、中小零細企業に有利な改定だったといえます。
また、加点対象機械も拡充され、より加点が取りやすくなっている項目といえるかもしれません。
一方で、専門業種によってはそもそも建設機械を導入する必要性がない、という専門業種もあります。土木工事業やとび土工、解体工事などは比較的建設機械との相性が良い業種といえますが、電気工事業や電気通信工事業などはあまり加点対象建設機械を必要とするような業種ではないかもしれません。
この建設機械による加点を取るには、毎年特定自主点検を受けておく必要がありますし、機械そのものの維持費もかかりますから、建設機械で加点を狙うというよりは、相性が良い業種を持っている場合に検討するようなイメージを持つとよいかもしれません。
建設業経理士1級、2級の取得もおすすめです。試験なので合格しないといけませんが、内容がまさに建設業の経理に関することなので、事業に役立てることができます。
経理担当者や総務部・経理部所属のスタッフに取得させておくと効果が高いでしょう。
建設業経理士の試験内容が理解できれば、経審制度への理解が同時に深めることができますし、建設業会計が一般的な簿記会計とは違う考え方をすることが求められていると理解しやすくなります。
建設業会計を踏まえて決算申告に対応している税理士の先生はそれほど多くないため、建設業経理士資格を取得し、建設業会計の理解を深めておく意味は非常に大きいものです。
経審業者は決算申告しているだけでは不十分!?
税理士の先生方はきちんと税法を踏まえた上で決算申告書を作成されています。
正しい正しくないというのではなく、ルールが違うのです。税理士の先生が作成された決算申告書は税務申告上もちろん適切でしょうし決算申告の上では最適化されている内容になっていると考えられます。
私たち行政書士の業界では、税理士の先生方が作成された決算書をお預かりし、建設業法に基づく決算変更届を作成することを「決算書の組み換え」と表現することがあります。翻訳作業のようなイメージかもしれません。
この組み換える内容によってはもちろん経審の評点も変わることになりますから経審受審業者さまにとっては非常に重要な意味を持ちます。
もし、建設業会計を考慮せずに作成されている決算申告書の内容をそのまま決算変更届に転記している、という事業者さまは、経審の評点で損をしている可能性が高いといえます(組み換えをおこなったとしても点数が上がるとは限りませんが)。
この建設業経理士資格は「建設業の経理の状況(W5)」という項目で記載されています。
会計監査人や会計参与を置いているか否か、公認会計士等の数、二級登録経理試験合格者の数、という項目です。よほどの大企業でない限り、会計監査人を置いていることは稀でしょうし、経審の加点のために会計監査人を置く、というのはあまり現実的ではないかなと感じます。
公認会計士等の数という項目は社内に公認会計士資格を持っている人がいるかどうか、という項目ですが、公認会計士資格を取得できるようならば独立して公認会計士事務所を作ることのほうが多いでしょうからこれも少し特殊なケースといえそうです。
ところが、一級登録経理試験合格者はこの「公認会計士等」に含めて計上できることになっています。公認会計士を雇用するのに要求されるであろうコストと比較すると、一級登録経理試験合格者の方が圧倒的に低コストになります。
さらに、一級登録経理試験合格者であれば「監査の受審状況」の項目について自主監査をすることが可能になり、これによる加点も併せて狙うことができます。建設業の経審においては、一級登録経理試験合格者は公認会計士とほとんど変わらないような扱いをされているといえるかもしれません。
公認会計士資格の取得難易度とは取得のしやすさが雲泥の差がありますのでコストパフォーマンスが良いといえます。2級の合格者は人数に応じてW点10点までの範囲で加点されます。
平均完成工事高の水準によって配点が変動するのですが、平均完成工事高1億円未満の事業者の場合は、二級登録経理試験合格者が1人いるだけで最大の10点加点を狙うことができます。
試験内容がまさに建設業の経理に関することであり、平均完成工事高によってはコストパフォーマンスが非常に高いためおすすめした建設業経理士(1級・2級)試験ですが、合格後5年経過した場合「登録経理講習」の受講と試験合格が加点の要件となりました。
これまでは1度合格していればずっと加点されていたのですが、企業会計基準が頻繁に変化する中で、継続的な研修の受講等によって最新の会計情報等に関する知識を習得することが重要になってきていることを踏まえた改正となりました。
ただし令和5年(2023年)3月までは経過措置として登録経理試験合格者は加点の対象となります。
ISO取得はかなり使いにくい
経審の社会性(W点)にはISO9001、ISO14001の取得による加点があります。
ただし、すでに取得済みならばともかく、これから取得されようとしている目的が経審の点数アップというのであれば慎重に検討された方が良いかもしれません。
これまでご紹介してきた施策に比べると費用は大きく、効果は限定的になりやすいです。ISOそのものは有用な制度ですし、価値のあるものだと思いますが、経審の加点のためという目的だけになってしまうと費用対効果はかなり良くない部類になるかと思われます。
極端な言い方をすればISO9001、ISO14001を取得するために全社挙げて体制を作るよりも一級技術者を雇用するほうが効果的かもしれません。
技術者は探すから育てるへ
建設産業は業界全体の問題が制度設計に反映されやすく、国も産業の維持促進に躍起になっている印象があります。
社会保険の義務化や若年技術者の育成や確保を加点要素としたのも建設業界に若者が入ってこず、技術者の高齢化が加速しているからでしょう。有資格者の確保はどこの建設業者でも深刻な課題となりつつあります。
中小零細企業・個人事業主は専技が居なくなると許可が維持できなくなりますし、大手企業やゼネコンでは適正な配置技術者の確保に頭を悩ませています。必要になればどこかから探して連れてくる、という考えではもはや技術者を確保するのが困難な状況です。
そうした状況もふまえ、35歳未満の技術者を新規に雇い入れたり、社内の技術者の一定数を超える人が35歳未満であるときに、加点評価する改定が行われました(W9)。
社外から連れてくるといっても所詮は建設業界内での出来事に過ぎず、技術者の母数を増やさなければもはや産業として生き残るのが難しいと考えたのかもしれません。
経審の加点要素となる少し前あたりから私の関与先でも技術者の雇用、から従業員の育成(資格取得を奨励するなど)の動きを目にすることが増えました。
せっかく苦労して社外から技術者を連れてきても自社の空気に馴染めなければすぐにやめてしまいます。
それならば長く勤めてくれているスタッフを育成した方が結局近道なのではないかと考える経営者の方が増えてきたように感じます。
さらに、雇用している技術者の知識や技術、技能の向上に努めている事業者を加点評価する制度が組み込まれました(W10)。
労働環境改善への取組みも評価項目へ
技術者の育成、若手技術者の確保と並行して、技術者が働きやすい・辞めにくい労働環境をつくることへの取組みも評価項目に取り入れられる流れが出てきています。
建設業キャリアアップシステム(CCUS)の導入も、ある意味では技術者の立場に立った制度といえるでしょう。
2023年8月に予定されている改定では、CCUSを導入し技術者の職業履歴を蓄積していける体制づくりができているかが加点対象になるとされています。
CCUSのほかにも女性活躍推進企業認定「えるぼし」や、子育てサポート企業認定「くるみん」などが加点対象とされる予定で、労働環境改善へ取組み事業者を優遇する制度が導入されることになっています。
点数アップの基本は売上を上げること
ここまでは比較的すぐに効果が出やすい項目(W点、Z点)について解説してきました。ここからは売上を上げる、利益を増やす、財務状況を改善する、という項目について解説していきます。
経審の点数(P点)アップの基本はやはり売上を上げ、利益を増やし、財務状況を改善することです。ただしこれらの改善は一朝一夕ではいきません。
上げようと思って上げられるものでもない要素でもあります。
その点で技術者(Z点)や、社会性(W点)は、手堅く確実に点数アップが見込めるため、初めに取り組むことをおすすめしました。
売上高で変動する完成工事高評点(X1)
P点のうち25%のウェイトが売上高・完成工事高評点(X1)に割り振られています。
0円~1,000億円以上を42区分に分け、397点~2,309点がつけられます。許可取得直後や、あたらしく参入する業種などは397点となることが多いですが、完成工事高が1,000万円を超えると80点ほどX1点が上がります。
X1点算出の際の完成工事高は2年あるいは3年間の平均を使います。急成長している際は2年平均で、売上が大きく減少した年度では3年平均を選択するのが得策です。
3年平均を選択すれば売上減少の影響を小さくすることも可能です(2年を選択しても構いませんが、点数が下がってしまいます)。
専門業種ごとに2年平均、3年平均を任意に選択することはできず、全業種について2年平均にするか、3年平均にするか、という選択になります。
そのため、2年平均を選ぶとA業種の点数が一番高くなるが、B業種の点数は3年平均を選択したときよりも下がる、ということが起きます。
自社にとって一番重視したい業種を決めておく必要があるでしょう。
経営規模で評価する経営規模評点(X2)
経営規模評点(X2)は、P点の15%が割り振られます。自己資本額と平均利益額から算出します。
47区分に分け、361点~2,114点がつけられます。会社設立直後などの場合、自己資本額はほとんどそのまま資本金の額とイコールになるので資本金が1,000万円未満だと一番低い361点となります。
X1で使われる売上高・完工高と違って、X2では自己資本額と平均利益額を使用するので決算状況によってはマイナス(0以下)があり得ます。
その場合は0として計算し、この場合も361点となります。平均利益額は営業利益+減価償却実施額の数字を使用します。
利益が出ていて自己資本額が積み上げられているか、設備投資などの減価償却が計上できているか、という視点の指標といえるかもしれません。
経営状況で評価する経営状況評点(Y)
経営状況評点(Y)は、P点の20%が割り振られます。最低点は0点、最高点は1,595点です。
負債抵抗力、収益性・効率性、財務健全性、絶対的力量、という4つのポイントで評価されることになります。
主に決算書の財務諸表の数値で算出します。Y点は経営状況分析結果通知書に記載されています。
X1,X2,Y点はどれも業績が好調であれば上昇することがほとんどです。
直近の業績が好調でも過大な設備投資が行われていたり、大きな負債が残っていたりするとその影響を受けることになります。
X1、X2、Yは社外の影響を受ける
これら3つの指標は元請や取引先など外部の影響を受けざるを得ません。
そのため、自社だけではなんともならない部分がある程度出てきてしまいます。
W点から取り組むのをおすすめしたのは、自社内で完結し、外部の影響を受けず、効果が出る(点数が改善する)のが早いためです。
外部の影響を受けないという意味ではZ点も同様です。
ただし、Z点は技術者を雇用する場合は採用がうまくいくかという点があります。
社内で育成する場合は社内で完結しますが、資格取得には時間がかかってしまうかもしれません。
W点から取り組めば、「より働きやすい会社」に近づくといえますので、W点から取り組むのはそういう意味でもおすすめです。
加点の取りこぼしに注意する
経審の加点要素は多岐にわたることに加え、制度改正が珍しくありません。
そのため、実は加点となる要素を達成しているのに取りこぼしている、ということが起こります。
入札に入るつもりが無かった時に達成していたり、加点となる条件が変わっていたり、と原因がいくつかあります。
自分の会社で加点の取りこぼしがないか不安を感じられるようでしたら、ぜひ一度相談してみてください。